問い直される演劇の〈リアル〉——2025年のアヴィニョン演劇祭/藤井慎太郎
ティアゴ・ロドリゲスのディレクションのもとで3回目となるアヴィニョン演劇祭が2025年7月5日から26日まで22日間にわたって開催された。今年のアヴィニョンの招待言語はアラビア語、共犯アーティストはマレーネ・モンテイロ・フレイタス(Marlene Monteiro Freitas)であった。
公式プログラムの「イン」だけでも参加作品が43本(および展示企画2件、公演会場は40、有料公演回数は291回、無料公演回数10回に及ぶ)、さらに200ほどの関連イヴェント(リーディング、上映会、講演会・ラウンドテーブル)が開かれた。約12万席を販売し、客席稼働率は最終的に98%という例外的な数字を記録した。インに参加した48のアーティストのうち男性と女性が同数の22人ずつ(および4組のコレクティヴ)を数え、フランスのアーティストが22人、国外アーティストが26人を数えたという。予算は1761万ユーロ(1ユーロ=170円として、約30億円)に上るが、その半分強(52%)が公的助成金によるもので、国(24%)、アヴィニョン市と広域行政体グランタヴィニョン(各5%)、県と地域圏(各4%)が分担している(アヴィニョン市とグランタヴィニョンは会場の無料提供というかたちでも計7%を負担している)。大半の作品の入場料金が35ユーロ(5950円)から45ユーロ(7650円)に設定され、その高騰ぶりに批判の声も多く聞かれたが、それでも入場料収入は予算全体の19%を占めるにすぎない。フリンジにあたる「オフ」の参加作品は1700本(140会場)を超えたといい、いつにも増してアヴィニョンは大勢の人で賑わった。そんななか、観客の多様化もさらに進んだ。非白人の観客もまだ少数派とはいえ以前よりも確実に増えたし、パラリンピックを経たせいだろうか、車椅子の観客や視覚障害者の観客も普通に目にするようになった(ただし視覚障害者のための音声解説は特定の公演に限られる)。
2025年の招待言語はアラビア語であり、演劇祭の開幕作品となったアリ・シャルール『海を見たとき』(Ali Chahrour, When I Saw the Sea、FabricA、7月5日〜8日、未見)、マレーネ・モンテイロ・フレイタス『夜』(Marlene Monteiro Freitas, NÔT、教皇庁栄誉の中庭、7月5日〜11日、『千夜一夜物語』にインスパイアされているという。映像をこちらから見ることができるが、日本からの視聴にはVPNが必要)をはじめ、アラビア語に関係する作品がプログラム全体の3割を占めた。アラブ世界のアーティストはもちろん、モロッコ系の移民の家庭にフランスで生まれたモアメッド・エル・カティブ(Mohamed El Khatib)やイラク生まれ、フランス育ちのタマラ・アル・サーディ(Tamara Al Saadi)ら、アラブ系のアーティストも多くプログラムされた。その一方で、モンテイロ・フレイタスの存在感はあまり感じられなかった上に、アラビア語で演じられる演劇作品が少なかったことには強い不満の声も聞かれた(ロドリゲスによれば、2025年の招聘に間に合わなかった2作品が2026年にプログラムされるとのことである)。
2025年はインを中心に30本ほどの作品を見ることができた。その中から、紹介に値すると思われた作品を取り上げて論じたい。



