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東京二期会、アルバン・ベルクの『LuLu』-ルルー を5年ぶりに再演   
華やかにして、幻惑的 ― ルルの内面を抉り出す舞台
この舞台で振付家/ダンサーとして活躍する中村蓉にインタビューした 

取材・文:立木燁子 

東京二期会『ルル』2021年公演写真 撮影:西村廣起

日本のオペラ界をリードする東京二期会が意欲的な公演を続けている。この春のシーズンは、20世紀のオペラ作品のなかでも、とりわけ人気の高いアルバン・ベルクの『LuLu』-ルルー(演出:カロリーネ・グルーバー)を5年ぶりに再演する。オペラ『ルル』は、作曲家アルバン・ベルクが作品の完成を待たずに世を去ったために、未完の2幕版とツェルハ補筆による全3幕完成版(1979年初演パリ)があり、日本では1970年のベルリン・ドイツオペラの来日公演での全2幕上演が本邦初演となる。以降、全3幕完成版の上演はなかなか実現しなかったところ、2003年に東京二期会が日生劇場の開場40周年記念特別公演として全3幕完成版を上演し、日本初演が果たされた。この特別公演は指揮を沼尻竜典、演出を佐藤信で上演された。

その後、二期会は2020年に評判の高いカロリーネ・グルーバー演出による『LuLu』―ルルー(全2幕)の上演を新たに予定、コロナ禍を経て、2021年8月にようやくグルーバー演出による舞台が初演された。困難を乗り越えた本公演は優れた舞台に結実し、2021年度のミュージック・ペンクラブ音楽賞に輝いた。

今シーズン、評判の高いカロリーネ・グルーバー版の『ルル』が再演される。歌手の歌い上げるルルとダンスで演じられる二重映しのルルの造形が、複雑にして魅力的な女性像を立ち上げる。ルルはファム・ファタールなのか、男性の欲望の対象でしかないのか。初演時、動きの少ない平板な舞台が多いオペラで、演出とは別に振付家を依頼、人物たちの立ち位置、動きなどが再構成され躍動感のある舞台創りが目指された。結果は、軽やかな美術と相まって多様な解釈を生むルル像が新鮮だと評された。

グルーバー演出の『ルル』の振付を担当するのが二期会ニューウェーブ・オペラ劇場などで活躍の場を広げる振付家の中村蓉だ。『ルル』では、中村は振付のほか<ルルの魂>を演じて舞台を盛り上げる。振付家として、舞踊家としてオペラに携わる魅力などを中村に語ってもらった。

中村蓉 撮影:前澤秀登
 

—— 広くご活躍ですね。振付家・ダンサーとしてのお仕事のほかに、演劇やパフォーマンスの分野でも 演出家として舞台創りに参加されておられます。早稲田大学の演劇科ご出身ですか。

「新たに設立された文化構想学部の第1期生なのです。分野をひとつに絞るのではなく、広く対象とするのが特徴で、「感性文化論」系と言いますか、<感性>を重視してテンポラリー・アートを考えています。
 大学で創作ダンスのサークルに入って、山田うんさんの授業を受けています。コンテンポラリー・ダンス小野寺修二さんのアシスタントをしていた時期もあります。」

—— 2013年に<ヨウ+>を旗揚げ、『ジゼル』(2021)、『fマクベス』(2023)『邦子狂詩曲』(2024)などを発表、その後も国際的にご活動を広げ、ルーマニアのシビウ国際演劇祭で作品を発表されたりして、受賞歴もいろいろございますね。

「はい、シビウ国際演劇祭で公演もさせていただき、東アジア文化都市式典韓国光州公演で作品発表などもしております。」

—— 演劇分野やパフォーマンスも含め幅広いご活躍が続いていますが、軸足はやはりダンスですか。芝居と舞踊の関係性や物語と身体―言葉や文脈の意味するものをどう演じるか、身体の真実を追求されたいとのご発言も知られています。『fマクベス』(吉祥寺シアター)のようにシェイクスピア作品を基にしていても、新鮮なアプローチが光ります。

「『fマクベス』の場合、台詞を調べてみると、<f>が多かったのです。例えば、恐れーfear,バーナムの森―forest,火―fire,友―friend、敵(仇)―foeというように・・・」

—— なるほど、面白いですね(笑)
最近では、歌舞伎にご関心があると伺っています。総合芸術である歌舞伎にご興味があり、歌舞伎の演出手法のなかでも<双面(ふたおもて)>の考え方に焦点をあてておられると伺っています。20261月の最新作『BLINK  双面改瞬間真似(ふたおもてあらためまたたきのまにまに)』(於KAAT神奈川芸術劇場)でもこの考え方を実験されたと聞いています。

「歌舞伎という芸能では、演劇、音楽、舞踊の要素が全体的に融け合っていますよね。「物語とダンス」の関係性を今一度ひも解いてみるといいますか、小説や戯曲を原案とした今までの独自の身体表現を見直しながら、古典芸能にヒントを得て、現代ならではの「物語とダンス」の発展的融合を目指そうと思ったのです。歌舞伎が「芝居と舞踊」で民衆を楽しませてきた歴史のなかでも、ちょっと「双面」という演出形式に着目してみようかと考えました。
 双面とは、まったく同じ姿をした瓜二つの人物が現れて、周囲を惑わした末に、どちらか一方の正体が<亡霊>であると判明するー歌舞伎の演出形式のひとつなのです。有名な歌舞伎の演目、『隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)』では、殺された法界坊と野分姫の二つの霊が合体して、それぞれが執着しているお組と松若に対して未練を語るのです。その媒介となるのは、お組そっくりの一つの身体です。そこに身体表現のイリュージョンが焙り出すアイデンティティと自己超越の問題が覗いていると思うのです。」

—— なるほど、二重表現の面白さですか?
 今回振付をされる『ルル』という主人公における存在の二重性と重なって参りますね。

「二期会の作品の演出は、あくまでカロリーネ・グルーバーさんです。私の仕事は、グルーバーさんの演出の枠内で振付を行うということですし、まず音楽の大きな枠組みがあります。
 でも、この作品の魅力は、やはりルルという存在をどう読み解くかなのではと思います。ルルは、ファム・ファタールなのか、あるいは犠牲者なのか、この部分の問いを、歌手とダンサーである私が表裏一体となって表現できないかな・・・と。
 12歳のルルに対しては、現代的な解釈をすれば児童虐待ということも言えるわけですし。演出のグルーバーさんからは、ダンスや演技を見せるのでなく、<心>を動かしなさい!というご指示をいただきました。(指示として)受けたことを、私たち演者が身体で受けて表現できればいいですね。」


指揮は新進気鋭のオスカー・ヨッケル。東京交響楽団を率いての日本デビューとなる。公演が期待される。

東京二期会『ルル』2021年公演写真 撮影:西村廣起

東京二期会オペラ『ルル』

2026年4月11日(土)カルッツかわさき
2026年4月17日(金)〜19日(日)新国立劇場 オペラパレス

         
中村蓉 プロフィール
早稲田大学在学中コンテンポラリーダンスを始める。2013年に〈ヨウ+〉を旗揚げし、小説や戯曲を原案とした作品を創作。国際芸術祭あいち2022、シビウ国際演劇祭等で作品を上演。代表作に『ジゼル』(2021)、『fマクベス』(2023)、『邦子狂詩曲』(2024)、『BLINK双面改瞬間真似』(2026)など。近年は東京二期会ニューウェーブ・オペラ劇場『セルセ』(2021)、『デイダミーア』(2024)で演出・振付を担当するなど、オペラ分野でも活躍。2026年4月東京二期会『ルル』では、「ルルの魂」として出演。これまでに、横浜ダンスコレクションEX2013審査員賞、第5回エルスール財団新人賞等受賞。