Print Friendly, PDF & Email

■フルオーディション/こつこつプロジェクト

【内田】こつこつプロジェクト ―ディベロップメント―」やフルオーディション企画など、小川さんがやってきた独自の試みについてうかがいます。まずフルオーディション企画の狙い、目標をどれくらい達成できているのか、そのあたりお話しいただけますか。

【小川】フルオーディション企画は、一般公募で、ご興味を持っていただいた方にオーディションを受けていただいて、演出家が作品に合ったキャスティングをする企画です。「企画」というのもおかしな言い方で、オーディションは当然だろうと言われたらその通りなんですが、事務所に入っていない人たちはどうするのだろう? 事務所に入らなきゃいけないのか? などいろいろなことを考えて、平等にオーディションをしていただく機会を作らねばならないとは思っていました。もちろんキャスティングでお客さんが来てくださるというのも大事な側面だとは思いますが、本当に純粋にこういう作品を創りたいからこのキャストが必要なんだ、というような、作品至上主義というと変ですが、演出家が本当にこの人でやりたいと思うキャスティングをしてください、というのがフルオーディション企画です。参加してくださった方も同じように、演出家とイメージが違うかなと思ったらそれを判断していただいたり、健康的に出会う場みたいな形でやりたいと思っていました。

 始めてみて紆余曲折もいっぱいありました。試行錯誤しながら一応準備は万端で始めたつもりなんですけど、拘束期間があまりにも長くなってしまうこともあったり、最初はネットで応募できるようにしていたら、ネットのシステムが上手くいかなかったりとか、毎回改善しながらシステムを作って一緒にやっている感じです。本当ならば「企画」という言葉ではなく、全部の作品をそうしたいというのが夢なんです。けれど、私の代では少し難しいかとは思います。

 ただ、ともかく現場の空気が素晴らしい。全員がやりたいと思って来てくださっているし、演出家の方もこの人が必要だと思ってやってるキャストなので、すごく可能性が広がる現場になる気がしました。

【内田】少し補足しましょう。僕が演劇記者になった頃は今と全然違う状況があって、劇作家も演出家も俳優も、劇団ないし演劇集団に所属する人がほとんどでした。今は学生時代から芸能プロダクションに入る役者志望の子もいます。事務所に入らないとスタートラインにも立てない現実があります。劇団に入ってたたき上げるプロセスがもうなくなっているんです。一方で、演劇界の商業化は非常に進んでいます。テレビ、とりわけCMで売れているタレントのスケジュールをまず押さえ、そのタレントを中心にどのような舞台がいいか考え、そのあとで演出家を選んでいく、そんな企画が多いんじゃないか。

【小川】それはいつ頃からそうなったのでしょうか?

【内田】バブル崩壊以降かな。80年代まではそんなことはなかったと思います。少しずつそういうふうになっていった。既成劇団の力が弱くなったということもあります。そういう状況のなかで国費を投入して舞台芸術を振興する新国立劇場がどういう立ち位置をとるかいうことはあると思います。フルオーディション企画というのは、今の芸能事務所中心の演劇制作システムに対する一種の問題提起でしょう。

【小川】そうですね。私は、現場中心に考えてしまいますけど、この人が何故この役をやるのかな? ということはなくはないし、ご本人もやりたくはないんじゃないか? というようなことをどの演出家も経験しているんじゃないかなと思います。

【内田】ある高名な演出家から聞いた話ですが、企画によっては事務所の人が「うちの子は何も知りませんのでよろしくお願いします!」と挨拶にくるそうです。そうなると箸の上げ下ろしから教えないといけない。何とか喋れるかなというところで初日になってしまう。実際そんな舞台があるんです。ところが、その方でチケットが売れてしまうし、売れ線を使っていれば、ひどい舞台でもスタンディング・オベーションになってしまう。こういう演劇界だからこそ、フルオーディション企画をやる意味があるわけですね。

【小川】稽古とか費用対効果を考えると、演劇創りってそんなに儲かるわけではない。作品を創るということは集中してやらなくてはいけないことなので、心身の負荷もかかりますし、本当にやりたいと思ってくれる方と、本当にこの方とやりたいと思う出会いを、なるべく作っていくというのはすごく重要なことだろうと思います。それは公共だからできることであるとは思ってはいるんです。キャスティングとは何か、ということにも正解があるわけじゃないけれど、それをみんなで考えていく機会にもなったらいいなと思っていたんです。

【内田】演出は一言でいうとキャスティングだという言い方があります。肝心のキャスティングができない演出家って何だろう。芸能プロダクション中心のプロデュース公演だと「本当にやりたいのかな」という人が重要な役にキャスティングされることまで起きる。やはり新国立劇場はそういう状況に敢然と闘い、違うことをやらないといけません。

 たとえば、当時の芸術監督だった鵜山仁さんの「シェイクスピア歴史劇シリーズ」はとても良い企画でした。かなりの部分を固定化されたメンバーでやっていたことに意味があったと思う。やはり集団性をもう一回見直さないといけないのではないでしょうか。薄い人間関係で、しかも本当にやりたいかどうかもわからないような役者がいる舞台を観ていると、観客の質も落ちていく。この悪循環を絶つ仕事を特に新国立劇場には求めたいですね。ある期間一定の人間でやることによって、ここまでは基本的にできているというライン、一定の水準から作品創りが始められるわけです。目的意識も共有されるし、初日のレベルも高くなる。集団性をもう一度見直す時期じゃないか。フルオーディション企画をもう少し発展させてほしいなと思います。『反応工程』(2021年7月/作=宮本研、演出=千葉哲也)はフルオーディション企画でしたね。

【小川】『反応工程』は感染症で1年間延期したので、意図せず「こつこつプロジェクト」にもなったんですけど(笑)。その間も集まれる時には演出家の千葉さんを中心に集まっていたので、1年間でさらに育ち、私は本当に素敵な作品になったと思っています。

 新国立ではなくシアター風姿花伝の話になりますが、風姿花伝は、亡くなった中嶋しゅうさんがお声をかけてくださったので、しゅうさんの周りにいる人たちが多かったんです。だから同じ演劇言語を持ちやすい人たちと一緒にやっていました。やはり何度も同じ役者さんとやっていくと、演出家としても気づかされたり、逆に役者さんが私の癖をわかってくださって、私の弱いところをカバーしてくれるということも出てくる。だから集団性という、繰り返すということも大きな一つの力にはなると思います。

 ただ私が日本に戻ってきたばかりで、右も左もわからないときに、いろいろな役者とやれる演出家にならないと駄目だと言われて、そういうものなのかなと思ったりしました。現在、私よりも少し若い演出家の方と話す機会も多いのですが、みんな同じような葛藤と不安を抱えていると思います。

【内田】実のところ、集団性には両面あるんですよ。集団はすぐに陳腐化するし、配役という問題を抱えた人間関係は濁ってくるから、長くやれば良いというものでもない。ただ今の演劇界の問題はむしろ、人間関係が浅くなりすぎたことにあるんじゃないかな。

【小川】それはどの辺で感じますか?

【内田】今は集団の個性を反映した芝居はほとんどなくて、小劇場の演劇を観にいくと同じ役者があちこちに出ています。テイストが似ている。1980年代は「沈黙劇」の転形劇場をはじめとして、いろいろな劇団の個性がありました。今とは対照的だったのです。80年代から90年代にかけて経済が上向き、芸術監督のいる劇場もどんどんできたから、逆に固定化された集団にいることが窮屈に感じられた面があったと思うんです。新しい出会いを求めることに意味があった。それまでは皆無に近かった助成金制度も整ってきましたから、プロデュース公演の方が面白いことができそうだという感じ――広場に出た感じがして、劇団制が崩壊していったのが90年代でしょうか。

ただ、その流れは結果的に芸能プロダクション中心主義に回収されていくんです。2000年代以降、雪崩をうってしまいました。本当の演劇性をどこに置き忘れてしまったんだろうと思います。新国立劇場はそうした時代状況のなかで形ができていったので、立ち位置が揺れてきました。経済効率からすれば売れ線のタレントを確保して効率的な稽古をして、チケットを初日前に売り切った方がいい。儲けるだけならそれでいいけれど、そこには批評のフィードバックはありません。公共劇場はやはり原点を模索してほしい。僕はフルオーディション企画や「こつこつプロジェクト」も、そういう視点で見ています。「こつこつプロジェクト」も長期でやること自体、経済効率主義に対するアンチテーゼですよね。

【小川】本当にそうですね。私自身、「こつこつプロジェクト」をやるために芸術監督になったと思っています。今は一緒に動いてくれている新国立の人たちも、最初は「何、それは?」というところから始まって。長く時間をかけるというと聞こえはいいですけど、具体的なやり方というのは何通りもある。それを、現状を考えながら組み立ててやってみて、最初に3人の演出家の方に1年目をお願いしたんです。彼らにフィードバックしていただいて、ここは改善した方がいいな、ということを繰り返しながら、次の芸術監督の方に渡せるようなシステムの基礎を作っていくということが自分の仕事だと思っています。ただ次の芸術監督の方がいらないといったら一気になくなるので、どうなるかわかりませんが、残してほしいと頼みたいと思ってはいます。意識的に、時間がかかることを始めようというのが大きなテーマだったので。

 お金はかかる。交通費だったり、ちょっとしたことにもお金は発生しますが、公演になるかならないかよくわからないものに予算をつけるということは、これまで概念的にはあまりないものでした。でも、いま信頼しているプロデューサーたちがこのような考えのもとで働いてくれて、「こつこつプロジェクト」が実際に動けるようになった。全員が無料でボランティアというのは長続きしないと思ったので、微々たるものですけれど、創ってくださっていることに対価をお渡ししています。役者さんってワンステージいくらという形になりやすいんですけれど、創るということに意識や想いがいかないと、どうしても成果主義だけになってしまう。もちろん成果は大事ですが、創る過程に投資をしていく、創る過程を作っていくことをどうしても始めたかった。過程というものはすごく謎めいていて、あまりにもそれぞれ違っていて……。

 日本に帰ってきて、いろいろな方とお仕事をさせていただくことになったら、現場によって、常識も考え方もお金も働き方も、それぞれの役割も、びっくりするほど違っていた。ヒエラルキーのあり方も違っていて、あまりにもわからなくなってその時は困惑していました。

【内田】小川さんはニューヨークのアクターズスタジオの大学院で学び、日本に帰ってきた。劇団の経験もないまま、いきなり制作現場に入って、日本的な演劇創りとのギャップに直面したんですよね。学生演劇から始めて、だんだんと日本の演劇界に慣れ親しんでいくというプロセスではないので、日本の演劇界に対する免疫がゼロ。今は新国立劇場で、そのギャップを埋めよう、答えを見つけようと活動してきたわけですね。「こつこつプロジェクト」は、ロンドンかニューヨークにモデルがあるものですか。

【小川】基本は、アメリカもイギリスもそうだと思いますが、たとえば新国立の小劇場規模の作品を作るときに、新作の戯曲を1ヵ月間の稽古で舞台に上げるというノウハウがないんですよ。2023年4-5月に新国立で上演する『エンジェルス・イン・アメリカ』は、ナショナル・シアターで上演していて、私はコロナ前だったので観に行けた時に話をさせてもらったら、その舞台には有名な方も出ていたんですけど、まったく関係なく、1年前に6週間の稽古を1回して、その間に読み合わせをもう1回やって、最終的に1~2ヵ月の稽古をしたそうです。あの作品は羽を使うんですが、その技術も大変なので、それは2~3年かかってる、と。その間はお金を払っているのか、どうやって拘束するのか、そういう具体的な話を聞きました。

 すると文化とか歴史の違いがわかった。時間がかかって当然だという概念がないとなかなか一気には動かないわけですよね。みんな忙しいし、もちろん無料で6週間の稽古をお願いするわけにはいかないし……、あまりにも違うので「ぜんぜん違う!」と興奮したら、「Eriko, patience(忍耐)」と(笑)。「私たちもこのシステムを作っていくまで30年以上かかっているから、試行錯誤しながら、焦らないで  patience で自分たちのやり方を見つけていくのが素敵なんじゃないの」と言われました。だから、50年プロジェクトと言い聞かせて、ゆっくりゆっくり試行錯誤しながら積み上げていくシステムを作りたいと思っています。

【内田】小川さんは以前に記者会見で、50年後を考えてやっていますと発言しましたが、そういうことだったんですね。

【小川】時間を積み上げていく。アンチテーゼばかりじゃなくて、地味に積み上げていくような流れというシステムを作りたいと思っています。

【内田】話は戻りますが、日本の演劇界で一番ショックだったことは何ですか。

【小川】3つくらいあります。まず1つ目は「キャストのオーディションをしたい」と言ったんです。その時に言われたのが、チケットが売れる役者さんはオーディションに来ないし、オーディションに来る役者さんはチケットが売れないから難しい、と。チケットを売るのはプロデューサーの仕事だと思っていたので、役者のチケットノルマという、そういう常識もあるのかと考えてしまった。

 あと、だいたいいつ頃には入金できるなど、値段の大小もあるんですけれども、お金の話が出てこないのは最初、びっくりしました。新国立でもできていない部分があって申し訳ないんですけど、いつ払われるかわからないと家賃も払えないし、お金の話は大事だなと。ただアメリカではユニオンがありますが、逆にユニオンが厳しすぎてそれはそれで大変なこともあるので……。ともかくお金のことは難しいと思いました。

 演出家と役者とスタッフの関係が、役割の違いで話せるのではなくて、その人が売れてるか売れてないか、偉い人かそうではないかということで、圧倒的に空気が違うということにも最初は度肝を抜かれました。その空気に左右されてしまうと、たとえば若くて始めたばかりの、とても繊細な人はすごくやりにくいことになってしまう。システムというのは何のためにあるのかというと、個人のせいにしなくて済むから。システムがあればシステムのせいにできるから、守られることっていっぱいある。ただ、それを超えていくためのものでもありますが。そういうので自分の現場でも試行錯誤しながら、ステージマネージャー制などいろいろやっていました。

【内田】小川さんは日本に帰ってきて、カルチャー・ギャップにショックを受けて、傷ついた。何とか回復したいということを新国立劇場でやっているのですね。

【小川】自分が何で芸術監督に選ばれたのかよくわからないままここにいます、選ばれた理由は言われないので。中学生ぐらいから自分の小遣いでずっと演劇を観ていて、演劇世界にずっと助けてもらい、演劇がなかったら私は生きていないと思う。ただの演劇ファンだった人間からすると、この人と本当に今一緒にできるんだという喜びもあったり、自分が好きな世界でお仕事させてもらって、いろいろな人に支えてもらった。もちろん上手くいかないこともたくさんあるんですけど、社会的な居場所、社会に関わっていいんだよということをくれたのは演劇の世界だから、そういう意味では、できることは恩返ししなくてはいけないという思いが自分の中にはすごくあります。でも、それができていないことの罪悪感もすごいんですけど。

【内田】税金は使いにくいわけです。規制が多い上、特定の企画に予算がつくので、活動資金自体にお金が出ることはない。「こつこつプロジェクト」のように、公演できるかどうかわからない稽古そのものにお金をつけるのは大変だったと思います。

【小川】まずその概念がないと説明が大変でした。「この携帯電話を作るために、一体どのぐらいの試作品ができていると思います?」という話から始めて。ものを創るというのは、試行錯誤を繰り返せば繰り返すほど、強度も増すしクリエーターたちも育つし、強くなっていくところがいっぱいあると思うんです。『エンジェルス・イン・アメリカ』は、書くのに5年かかってる。そうなると強度が上がるんですよね。批判にも批評にも耐えていく。だから議論にもなっていく。強度を叩き上げられる時間と空間と、感謝と敬意を合わせるためのお金が必要だと思います。

【内田】「こつこつプロジェクト」の予算はどうだったんですか。前例がなかったでしょう。

【小川】プロデューサーの方がすごく頑張ってくれたので。

【内田】プロセスとしては理事会に予算案を上げるのでしょうか。

【小川】でもその理事会承認の前までが大変です。理事会の議事録に入るまでが大変で、それを何とか突破してくださった。まだまだ課題ばかりですが、1年間をかけてやっていき、3段階で内々に発表会をやりますが、いろいろな部署の人が観に来てくれるんですよ。新国立はとても大きな組織なので、制作に関わっていない国際交流やチケット担当者も、どんなことをやっているのかと観に来てきてくださるのは、すごく嬉しかったですね。

【内田】お金がいつ出るか、その期日がわからないと家賃の問題が生じるというリアリティを知る小川さんだから、わかることですね。

 たとえば野田秀樹さんはロンドンに留学してワークショップを経験し、そのなかでサイモン・マクバーニーと出会って人間関係が広がりました。その過程があったから『THE BEE』という作品ができた。実は大変な時間をかけていたわけです。野田さんが東京芸術劇場の芸術監督として「東京演劇道場」のような連続ワークショップをしているのは、その経験があるから。蜷川幸雄さんも彩の国さいたま芸術劇場の芸術監督になると、さいたまゴールド・シアターという高齢者劇団や、さいたまネクスト・シアターという若い俳優集団を作った。与野本町の劇場に行くと、町工場みたいに人がいつも何らかの作業をしている。蜷川さんもしょっちゅう来ている。そういう空気が演劇の場合はとても大事なんじゃないかという気がします。新国立劇場はいってみれば文科省の川下にある、官僚化したタテ割りの組織です。官僚は前例のないことをやりたくない習性がありますから、創造性を阻害しがちです。不断に風穴を開けていかないといけません。その意味でいうと、「こつこつプロジェクト」をやる意味はあったと思われますか。

【小川】先日『あーぶくたった、にいたった』(2021年12月/作=別役実、演出=西沢栄治)の上演があったのですが、自分が初日を迎えるときとは作品の強度が全然違うと思いました。もちろん好き嫌いはあると思いますが、流れる空気感が、どうしてここで音楽が鳴るのか、どうしてこの拍があるのか、このシーンはどこに向かっているのか、それらに裏打ちされたものがあり、時間をかけてやってきたということはものすごく大きいんだと、私自身は自信になりました。

【内田】「こつこつプロジェクト」は、この別役実さんの『あーぶくたった、にいたった』がはじめての本公演でした。残りは本公演できるかどうかわからない。見通しはどうですか。

【小川】「こつこつプロジェクト」は、第2期として3人の新しい演出家の方にもお願いしているんですが、これは3人で競っているわけでも、その中の1本を選びたいというわけでもないんです。3本ともプロジェクト続行は難しくなったら、それはそれで仕方がない。ただ何とか3本とも良い作品にして、仮に新国立が駄目でも、他の劇場でも、他のプロデューサーの方でもいいので、こんな良い作品があるんだ、良い役者がいるんだと思ってくださるような機会になったらいいなと思ってやっています。

 実を言うと1期目の時にはコロナの影響で、いろいろなプロデューサーの方に来ていただく予定が難しくなってしまったんですが、2期は何とかできたらいいなと思って動いています。このグループや我々を、ずっとリソースとして使っていただきたいと思います。また1期目の方にもこれで終わりではなく、これからもモノを創る場所としてこの劇場を利用していただけたら嬉しいです。創り手の方って劇場にとって財産なので、この先、その中の方に別の作品を新国立でお願いすることが生まれたり、経済的なことだけでなく、創造するものを創る場所としてお互いのメリットになるような関係を作りたい。そういうふうに思ってもらえる人間関係を作っていくことがとても大事なことだと思うんですよ。口では言えるけれど、本当にそう思ってもらうには、どういう対応をして、どういう付き合いをしていくかということで証明していくしかないですね。

【内田】『あーぶくたった、にいたった』も役者がしっかり演技ができていて、よかったと思いますが、観客が少なかった。人気タレントを使わないとチケットが売れない傾向はひどくなっていますね。「こつこつプロジェクト」から決定的作品ができ、口コミや批評で「さすが新国立劇場」と評判になり、チケットが動きだすプロセスができるといいですね。

【小川】それをいつの日かと目指してやってます。時間は本当にかかるんです。特に意識的にやっていくという時はかかるんですね。たとえば「こつこつプロジェクト」を作ったから、1年かけたからいい作品ができるというのは違う。そういう方式ではない。