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6. 私の居場所

宝塚歌劇宙組「エリザベート―愛と死の輪舞(ロンド)――」 朝夏まなと(右前) ©宝塚歌劇団 禁複写・無断転載
宝塚歌劇宙組「エリザベート―愛と死の輪舞(ロンド)――」 朝夏まなと(右前) ©宝塚歌劇団 禁複写・無断転載

  この主題を宝塚版は少女漫画の文脈で読み直した。藤本由香里『私の居場所はどこにあるの?』(学陽書房1998年)によると、ほとんどすべての少女漫画の主題は、性、恋愛、家族、仕事において自分の存在に不安を抱き、居場所を求める少女たちの手探りの闘いである。この不安は愛する異性が自分を好きだと言ってくれ、自分の存在を肯定してくれる時、初めて解消され、「女」というマイナスの符号は劇的にプラスに変わり燦然と輝き始める。
 宝塚版の『エリザベート』はまさにこれである。旧弊なハプスブルク家の宮廷で、居場所を求めて手探りの闘いを続けていたヒロインは今トートの胸に抱かれて昇天していく。新婚初夜が明けた朝の皇帝と違い、彼女の全てを肯定し、愛すると言ってくれた。これはエリザベートがやっと迎えた真実の新婚初夜にほかならない。もし初演の宝塚版の終幕が原作を踏襲していたら、オーストリアとは文化を異にする日本でこれほどの成功をおさめたかどうか疑わしい。宝塚の「男役中心主義」が少女漫画を呼び寄せた。「男役中心主義」と少女漫画のメソッドが終幕で手を取り合っている。しかも男トートと見えたのは、やはりヒロインが自分の居場所を探して作り上げた幻影に過ぎず、そこには少女が1人立っているだけである。
 今回の宙組公演には、初演当時はまだ歌劇団の演出部に入団していなかった小柳奈穂子が共同演出に加わっている。主要なキャストは、朝夏まなとのトート、実咲凜音のエリザベート、真風涼帆のフランツ・ヨーゼフ、愛月ひかるのルイジ・ルキーニ、純矢ちとせの皇太后ゾフィー。皇太子ルドルフには澄輝さやと、蒼羽りく、桜木みなとのトリプルキャストが組まれている。多くの役が初演以来さまざまに工夫されてきた。今回の舞台はそれらの工夫を一度白紙に戻して、原点のドラマを見つめ直そうとしているかに思われる。

参考文献

  • 「ELISABETH」(『TEXTBUCH THEATER AN DER WIEN』 1992年)
  • 『スペシャルエディション エリザベート 20th Anniversary』(宝塚歌劇団 宝塚クリエイティブアーツ 2016年、20周年記念ムック)