『「現代能楽集」の挑戦 鍊肉工房1971-2017』刊行記念トーク──岡本章氏を迎えて(2019年1月27日)
2019年1月27日
『「現代能楽集」の挑戦 鍊肉工房1971-2017』刊行記念トーク──岡本章氏を迎えて
ゲスト 岡本章氏(演出家・鍊肉工房芸術監督)
聞き手 西堂行人氏(演劇評論家・国際演劇評論家協会(AICT)日本センター会員・明治学院大学教授)
司 会 嶋田直哉(シアターアーツ編集長・明治大学准教授)
■本の成り立ち
嶋田 国際演劇評論家協会日本センターシアターアーツ主催の劇評講座を始めます。本日は鍊肉工房芸術監督で演出家の岡本章氏をゲストにお迎えして、『現代能楽集の挑戦 鍊肉工房1971~2017』(論創社)の刊行記念トークとして進めていきたいと思います。私は「シアターアーツ」編集長の嶋田直哉です。よろしくお願いいたします。今日は岡本章さんと聞き手に西堂行人さんをお迎えして進めていきたいと思います。
西堂 西堂です。よろしくお願いいたします。600頁を超える大著が出ました。僕が『テアトロ』の連載で2018年12月号に書いた4ページにわたる文章があります。朝日新聞「著者に会いたい」で岡本さんの姿が載っている紹介、日経新聞「文化往来」、週刊読書人でドイツ文学の平田栄一朗さんが書かれた書評があり、図書新聞でも舞踊評論家の原田広美さんが書かれたものもあります。もう一つ、つい最近週刊読書人に岡本さんと比較思想の四方田犬彦さんの対談の記事が載りました。これは11月30日に神保町の会場で岡本さんと四方田さんの対談が行われた時の記録になります(その後、読売新聞の「著者来店」や能楽タイムズにも書評掲載)。一冊の本からずいぶんいろいろなリアクションが起きたなあと改めて思います。そのようなことを巡りながら今日の議論を進めていきたいと思います。
岡本 2018年の10月の出版まで結構時間がかかりました。劇団創設40周年記念の時に出そうと思っていたのですが、間に合いませんでした。内容が多岐にわたっていますし、編集もきちんとやりたかったので出せずにいましたところ、今回錬肉工房45周年の記念としてやっと刊行できました。おかげさまで多方面から批評や紹介が出たり、反響や手ごたえがありました。
この本は僕の編著になっていますけれど、まず僕が「現代能楽集」の作業や、伝統と現代の問題、能と現代演劇に関して書いた論考の中で、深く内容と関係するようなものが収録されています。それ以外にも様々なジャンルの論者、表現者による書き下ろし論考やエッセイ、シンポジウム、講演、対談、座談会なども収められています。いろいろな方々からお力添えをいただけて有難かったと思っています。また、これは長期間にわたって、様々な表現者の方たちとの丁寧な共同作業の積み重ねの中からできた本だと思ってます。
何を一番に大事にして作業を持続、展開し、そしてこの本を刊行したのかというと、「現代能楽集」の連作の挑戦の作業を中心に据え、多様な角度から能の本質とは何か、また能と現代演劇、現代芸術との交流、展開の可能性を捉え返すことでした。そのことを通して伝統と現代の根底の課題が多面的、具体的に考察されています。また、サブタイトルにありますように、1971年に創設した錬肉工房の長期間にわたる実践活動、その営為の意味や内実が問い直されています。それとともにこの本の重要な側面として、単にこれまでの営為の捉え返しだけではなく、同時にそれが現在の演劇状況、芸術シーン、社会の閉塞状況などをどう受け止め、根底から対象化し、少しでも問題提起になる所があればと考えられていたことも事実です。折角の機会ですので、そうした問題意識をさらに深めて議論できればと思っています。