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▼横山拓也の近作をめぐって

嶋田:そのあたりは、最近の横山拓也さんの舞台作品を振り返りながら考えていきたいと思います。
 昨年(2018年)11月にiaku公演『逢いにいくの、雨だけど』(作・演出=横山拓也、三鷹芸術文化センター星のホール)という作品がありました。これも、階段状の板が積み上がった、非常に抽象的な舞台装置です。2組の家族が登場し、それぞれの家族の子どもが同じ絵画教室に通っていて、そこで片目を失明してしまうケガを負わせてしまい、それ以降この二つの家族が疎遠になってしまいますが、年月を経てこの二人が再会し、わだかまりが解けるという、「許し」がテーマの作品でした。これは第22回鶴屋南北戯曲賞にノミネートされた作品ですね。
 あとは、同じく昨年(2018年)年5月に俳優座に書き下ろした『首のないカマキリ』(作=横山拓也、演出=眞鍋卓嗣、俳優座稽古場)ですね。献体やドナー、骨髄バンクなど命に関わる重厚なテーマを家族の会話から立ち上げていきました。
 またこの作品上演と同時期にiaku公演『iaku演劇作品集』(作・演出=横山拓也、演出=上田一軒、こまばアゴラ劇場、2018)でこれまでの作品をまとめて上演していました。昨年(2018年)は再演も含めて、特に公演が多かったと思いますが、いずれの公演も高水準の完成度でした。
 私が最初に横山さんの作品を観たのはiaku公演『粛々と運針』(作・演出=横山拓也、新宿眼科画廊、2017)で、これも二つの家族のお話です。それぞれの家庭に起こる死と生をめぐって何気ない会話から、それぞれの登場人物の心理を見事に描いていて秀逸でした。2人の女性が舞台の両サイドに座って、刺繍をしながら話を進めていく手法も見事でした。
 このようにみていくと、横山さんが、今、非常に良い作品を量産していることは、昨年(2018年)、『iaku演劇作品集』のように自分の作品をまとめたこともあって、横山さんの中では計画的なことのようにも思えます。屠殺をめぐる作品『エダニク』(2009年)は、最近、他の劇団での上演が多いですね。

今村:そうですね。この間、6月に鄭義信さんが演出していましたし(作=横山拓也、演出=鄭義信、浅草九劇、2019)。

嶋田:今回の作品にキャスティングされた枝元さんが所属する劇団ハイリンドでも早船聡さんの演出で『エダニク』の上演がありました(作=横山拓也、演出=早船聡、下北沢シアター711、2018)。その他、横山さんの作品の上演では同じく劇団ハイリンド番外公演『仮面夫婦の鏡』(作=横山拓也、演出=有馬自由、下北沢ギャラリースターダスト、2017)があります。美容整形をめぐる夫婦の話をコメディタッチで描いていました。松本哲也さんの演出ではiaku+小松台東公演『目頭を押さえた』(作=横山拓也、演出=松本哲也、サンモールスタジオ、2018)があります。これは横山さんが初演で書いた大阪の場面設定を、松本哲也さんが宮崎に置き換えて、その土地の習俗を混ぜ合わせて描いた素晴らしい作品でした。
 このように他劇団での上演、あるいは共同公演が数多いことを考えてみますと、「家族」といった普遍的なテーマを基盤にしていることが大きな理由かと思います。ただそれだけではなくて、普通の会話でドラマを広げて、深めていく台本の力に、比類なきものがあるので、横山さんの作品は多くの演出家が取り上げたいのでしょうね。実際にこれらの他劇団での上演を観ても、横山さんの台本の力に納得させられてしまいます。

今村:今年(2019年)4月には企画集団マッチポイント公演『ヒトハミナ、ヒトナミノ』(作=横山拓也、演出=松本祐子、下北沢駅前劇場、2019)もありました。文学座の松本祐子の演出です。この作品は介護施設を舞台にして、介護施設の職員と、経営者、それから収容されている障害者の人間関係を描いて行くのです。結局、障害者といわゆるヘルパーの恋愛問題などの少しややこしい問題も抱えつつ、一方で、介護施設なのに、経営難から職員が副業ばかりをやらされていて、ノルマをこなすのにきゅうきゅうだという中に、ヘルパーになつきまくる女性の障害者などが出てきて、話がどんどんややこしくなっていく。
 相当、実際の介護施設などに取材をしたようです。社会的な広がりのある問題提起しつつ、非常に、細かな感情の機微をすくい上げていく作品です。これも、かなり見応えがありました。

嶋田:社会的な広がりという点から考えてみるとiaku公演『ハイツブリが飛ぶのを』(作=横山拓也、演出=上田一軒、こまばアゴラ劇場、2017)は鹿児島の桜島とおぼしき活火山が大噴火したのちの世界を描いていました。自然災害に向き合っていた作品だと思います。

今村:このような方向とは全く別にMONO公演『涙目コント』(作=土田英生、前川知大、平塚直隆、演出=土田英生、三鷹芸術文化センター、2019)でも横山さんは短篇を書いていましたね。いろいろなジャンルの作品が書けて、フットワークもかなり軽い気がします。

嶋田:今度、また俳優座で横山さんの作品の上演がありますね。『雉はじめて鳴く』(作=横山拓也、演出=眞鍋卓嗣、俳優座劇場、2020)で『首のないカマキリ』に続いて俳優座の眞鍋卓嗣とのタッグ第2弾となります。今度は教育現場が舞台となるようです。

藤原:横山さんは今の40代の劇作家では、どういう位置付けになるのですか。

嶋田:普通の言葉で日常的な物語をしっかり書ける作家ですね。比較的近い位置にサスペンデッズの早船聡さんがいます。このお二人は非常に上質で安定感のある作品が特長かと思います。先ほど柴田さんのご指摘にあった舞台への没入感を堪能できますね。このお二人の延長線上に長田育恵が位置する感覚があります。

今村:すごく生活感のある会話劇を書ける人です。会話がきちんと成立しています。

嶋田:一昔前のケラリーノ・サンドロヴィッチや松尾スズキが、エロや暴力、ナンセンスギャグを繰り出して作品を創っていったのとは内容的に真逆の方向性を感じます。どちらがいいとか悪いとかではなくて、ケラさんたちの露悪的なハラハラ感と、横山さんたちの日常的な安定感は作品の内容としては対照的ですね。このあたりは探っていくと単なる世代間の問題にとどまらず、かなり面白いテーマが見つかるような気がしますね。
 『あつい胸騒ぎ』の劇評から始まり、横山さんの位置づけまで、多くの視点が出そろったと思います。まだまだ語り尽きないとは思いますが、横山さんの次回作『雉はじめて鳴く』に期待を寄せつつ、このあたりで今回の座談会演劇時評を終わりにしたいと思います。皆様おつかれさまでした。

全員:おつかれさまでした。

(2019年10月6日@明治大学和泉キャンパス研究棟共同研究室1)