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新たな資金モデル

 舞台芸術の財政は破綻している、多くの意味で。事後的な改革しか行われない。資源の分配が不均衡であり、前例に従うばかりで、人口や社会の変化を考慮していないことが多い。

 先のことを考える代わりに、過去に向けて思考している。そして文化を担う機関を価値創造の要と考えることがなく、地域や地元の経済的発展しか頭にない――それが現状である。

 資金モデルに関して、何を再発明すべきかというと、ほぼすべてを、ということになる。

 公共の資金はいまだにもっとも重要だ。なぜなら未来の演劇は革新されなければならないからである(模範となる新たな劇場や古い劇場の再活性化はチケット収入だけでは不可能だ)。しかし、公共資金の配分は伝統や前例によるのではなく、革新と新たな観客動員を条件とするものでなくてはならない。舞台芸術の多くの伝統的組織が過去と自らの業績にのみ目を向けている現状で緊急に必要なことは、地域・国家両方のレベルで資源を参加と共同体を基にして配分することであり、地元と国際との両面における提携を考える想像力が求められている。私企業による資金提供はもちろん歓迎すべきだが、それが公共の資金に代わるものであってはならず、補填するものでなくてはならない(とくに既存の配分システムを撹乱し再活性化するものであるべきだ)。

 舞台芸術を管理する予算システムは時代遅れで、単に地元の価値創造をめざしているに過ぎない(わが町のため、自分たちの地域のために…)。歳入を得てくるために広く可能性を探ろうとするわけでもなく、ただ金銭をばらまいて、芸術家のためになったためしがない(アーティストはしばしば単なる「コスト」と見なされている)。

 消費税のシステムは舞台芸術を贅沢品として位置付けているが、それはまったく間違っている。舞台芸術は本質的な品物だからだ。

 企業による支援はいまだに柔軟性を欠き、現代の必要に応えていない。企業のロゴを付ける代わりに資金をもらう時代は終わったのだ。新たな提携モデルが必要であり、それはスポンサー企業にとってもその資金を受け取る側にとっても真の価値を生み出すものでなくてはならない。

 財政の革新と知的財産権の管理、この二つが早急に要請されている。クラウドファンディングから脱中央集権的な自立組織による代替不可能社債(NFTs)の発行まで、これまでになかったモデルを試すことが必要である。

 もしも新しい資金モデルによって未来の演劇が作られ支えられ維持されなかったならどうなるか? 劇場は活気を失い、未来の観客はしだいに寄り付かなくなって、舞台芸術は映像だけにあると知るようになってしまうだろう。しかし映像や配信メディアは未来の演劇の最良の友人なのだ。演劇の命が再生され、その根本的な役割を刷新され、「生の増幅」を果たすための要となるが、映像や配信メディアなのである。

 

新たな規範

 未来の演劇は、建築、組織、人間、それらすべてに新たな構造を必要とする――新しい物理的生産場所、新しい資金モデル、新しい職業的役割。

 「生の増幅」が未来の演劇の規範である。舞台芸術もエコロジーの一部として、他者を排除せず、あらゆる人にアクセスを保証し、コストを削減して、観客の参加と交流を促そうではないか。

 未来の演劇のために未来の観客は育てられねばならない。それを迎え入れるためには、舞台芸術のプログラム作成に新しい視点を導入して、観客育成に役立てるべきだ。

 配信メディアは未来の演劇にとっては創造的な媒体であって、単なる補助ではない。其のメディアの特性を探ろう。

 未来の演劇は、より公平で創造的なデジタル空間を要請する。それは制作者を支援し観客参加を促すプラットフォームとして、文化のコンテンツを所有する際のより平等で拡散したモデルを推進するものであるべきだ。

 過去の演劇と同様、未来の演劇もパブリック、プライヴェート両方の資金を必要とするが、その焦点は新しい観客の創出に絞られなくてはならない。

 そして最も重要なこと、それは――

 未来の演劇はいまここにある。パンデミックが終わってかつての「普通」に戻ることなどありえない。その「普通」はすでに壊れており、いまこそ勇気と展望と行動が求められているのだ。

 未来演劇プロジェクトは、ジェフリー・シュナップとパオロ・ペトロチェリによって企画された。


研究グループメンバー:

Matthew Battles (USA) Director of Scholarly Initiatives, metaLAB (at) Harvard

Cathie Boyd (Ireland/Scotland) Founder & Artistic Director, Cryptic

Marc Brickman (USA) Managing Director, Tactical Manoeuvre

Paolo Ciuccarelli (Italy/USA) Founding Director, Center for Design, Northeastern University, Boston

Wesley Cornwell (USA) Harvard Graduate School of Design

Lins Derry (USA) Principal, metaLAB (at) Harvard

Evenlyn Ficarra (UK) Associate Director, Centre for Research in Opera and Music Theatre, University of Sussex

Mariana Ibañez (Argentina/USA) Chair and Associate Professor, Architecture and Urban Design, UCLA; Co-founder, Ibañez Kim

Simone Kim (USA) Director, Immersive Kinematics Research Group; Co-founder, Ibañez Kim

Mohammed Obaidullah (Saudi Arabia) Producer

Jay Pather (South Africa) Director, Institute for Creative Arts, University of Cape Town

Paolo Petrocelli (Italy) Research Affiliate, metaLAB at Harvard

Cui Qiao (China) President, Beijing Contemporary Art Foundation

Magda Romanska (USA) Associate Professor of Theatre Studies and Dramaturgy, Emerson College; Research Affiliate, metaLAB at Harvard; Chair, Transmedia Arts Seminar at Mahindra Humanities Center and metaLAB; Executive Director and Editor-in-Chief, TheTheatreTimes.com

Adama Sanneh (ITA) Co-Founder and CEO, Moleskine Foundation

Anthony Sargent (UK) International Cultural Consultant

Jeffrey Schnapp (USA) Faculty Director, metaLAB (at) Harvard

Shain Shapiro (UK) Founder & CEO, Sound Diplomacy

Sydney Skybetter (USA) Founder, Conference for Research on Choreographic Interfaces

Jean-Philippe Thiellay (France) President, Centre national de la musique

Shahrokh Yadegari (USA) Director, Sonic Arts Research and Development group at the University of California San Diego; Director, Initiative for Digital Exploration of Arts and Sciences at the Qualcomm Institute