劇評講座報告

翻訳するココロ、演出するコトバ

            ――小山ゆうな氏を迎えて

(2019年9月29日(日) 18時~@座・高円寺けいこ場2)   

柴田隆子

 現代に生きる我々の問題としてウィットに富んだ舞台を立ち上げる演出家小山ゆうなさんは、主宰するアーティストユニット「雷ストレンジャーズ」では、シラーやイプセン、ストリンドベリらの古典翻訳劇を通して現代社会と向き合う「ジェット紀行」シリーズを続ける一方、世田谷パブリックシアターで上演し小田島雄志・翻訳戯曲賞、読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞したW.ヘンドルフ『チック』の他、F.ツェラー『カスパー・ホイザー・メア』やY.ロネン『コモン・グラウンド』など、ドイツ語圏で話題の現代作品を手掛けています。本講座では、今夏再演された『チック』や雷ストレンジャーズ・ジェット紀行の活動などから、翻訳劇に向ける小山氏のお考えを伺いました。

  『チック』について

〇この夏にも再演された『チック』は、小山さんは、W.ヘルンドルフの児童向けの原作小説の戯曲をご自身で翻訳され演出されていますが、どのような経緯で翻訳を手掛けられたのでしょうか。

―――もともと私は翻訳家ではないので、基本的にはどなたかにお願いするのですが、世田谷パブリックシアターさんからお話があり、プロデューサーにお見せするための下訳のつもりで訳したものが受け入れられたのがきっかけです。14歳の子供たちが実際にしゃべっているような生きた口語にすることを重視しました。演出の過程で出演者やプロデューサーのアイデアなども取り入れながら作っていったので、一人で翻訳したという意識は、実はないのです。

〇『チック』の公演では主人公のひとり、マイクの物語る長ゼリフが印象的でしたが、会話の口語の部分との違いは翻訳や演出において意識されていたのでしょうか。

――マイクという少年は現実の世界ではほとんどしゃべらない子です。コミュニケーション能力が低く周りにも親にも何を考えているかわからない子だと思われているのですが、内面世界ではずっと饒舌にしゃべり続けている。なので、実際の舞台では、マイク役の篠山輝信君はずっとしゃべっているのですけれど、そうした内面の世界と実際の世界をどう色分けするかがとても大事なことなのだと気づいたのは、実は再演の時だったりします(笑)。もちろん翻訳した時点でも、一人称の呼び方をどうするのかをプロデューサーさんと話したりして意識していましたが、再演の時に皆と考えながらより意識して変えていった部分ではあります。

〇再演では手話通訳をいれていましたが、これはどのようなお考えからだったのでしょうか。

―――聴覚障害をお持ちの方に対しては、字幕や端末で同時通訳する機械などもあるのですが、プロデューサーの方がライブで演じながら演じた方が伝わるものがあるのではないかと、選択肢のひとつとしてとりいれることになりました。実際に手話通訳がはいったのは、2公演だったと思います。手話通訳は体力的にも1公演すべてやれる方は少ないそうなのですが、米内山陽子さんはひとりでこなし、稽古もつきあっていただきました。基本はお任せで、いくつかの場面でのみ先に手話が話す、俳優と絡むなどを演出としてお願いしましたが、すごく上手なバランスでやってくださいました。手話通訳付きの舞台が進んでいるのはイギリスなどでしょうか。ただ日本でも今回、手話通訳のついた公演は、お客様も多く、評判もよく、ニーズがあると思います。

〇客席の一部を舞台にしたりライブカメラの映像をスクリーンに投影したりなど、面白い取り組みがありましたが、どのような意図で演出されたのでしょうか?

―――車で旅をする話なので、客席も含めて皆で旅をしているようになればよいなと考え、客席最前列を運転席にしました。ライブカメラも、ライブ感の共有ができるかなと。

―――美術の乘峯雅寛さんとプールを出す方法について話していた時に、プールの屋根をスクリーンにして上がったり下がったりする形で、色々な形で使えるように機能できるものを提案してくださいました。舞台は総合芸術なので、演出個人というよりは美術家さんや俳優さんとの協働の力で作られています。

―――初演の時は、その時にセリフを喋っていない人達の照明はかなり暗かったのです。再演では、喋っていないけれど、舞台上にいて、例えば早変わりしている人達もみえるようにかなり明るく作りました。

〇チックは原作では他者として描かれているのではないかと思いますが、配役はどのように考えられたのでしょう。

―――チック役はドイツで公演するとしたら、明らかに移民という見た目やイントネーションの可能性が高いですよね。今回の日本での公演でもその可能性も探りましたが、少しなまっている箇所だけ作り、後はお客様の想像に委ねることにしました。本当はルーツが違う人が日本にもいるので、そうした部分も取り入れられたらよかったのかもしれません。ドイツの劇場で活動されている女優の原サチコさんが今回観に来てくださったのですが、ドイツでは明らかに見た目や言葉が違う人が、という部分も面白い作品なのよねとおっしゃってました。

「チック」に限らないのですが、日本では正しい日本語をしゃべれないと、言葉を話すお芝居は難しい。これはもうちょっと開かれていくといいのかなと思います。異文化のものが入ってきたときにそれをどう扱うのかは今後も課題だなと思います。

 

  『雷ストレンジャーズ』について

〇『雷ストレンジャーズ』を始めたきっかけは?

―――もともと私は劇団にいて、劇団の楽しさや先輩がいる事の素晴らしさを満喫したのですが同時に、スケジュール的に大変な事もあってやめたので、また劇団を作るのは違うと思いました。でも積み重ねていきたかったので、ゆるやかなユニットにしました。『雷ストレンジャーズ』は、作家と映画監督と俳優と定期的に話をする「木曜会」から発展した団体です。木曜日に色々な異なるジャンルの人が集う、ドイツ語では雷曜日となるので、そこから名前がつきました。

〇イプセン『リーグ・オブ・ユース』

―――日本初演作品です。イプセンという作家の力が大きいと思います。見やすくしたいという思いはありますが、もうちょっといい方法があったのではないかなといつも思います。「リーグ・オブ・ユース」は海外に持っていくことを前提に作りました。美術の乗峯さんは持ち運びしやすさも考えて作ってくださいました。日本のお客様と海外のお客様ではカットする部分も違うと思います。日本の観客のことだけを考えるだけでなく、もう少し世界に目を広げてみてもよいかなと思います。

〇映像を見ながら

―――『父』は部屋を作るときに、劇場の壁をそのまま使いました。小劇場ですが空間を広く使えます。サンモールスタジオで、壁を塗る許可がおりたので、スウェーデンの家の壁の色に多く使われている色を黒板塗料を使って皆で塗りました。机や暖炉やドアなど一部の造作を除いては、すべて描いています。

ヨーロッパや南米の劇場などでもよく上演されている作品です。普遍的な人と人のわかりあえなさとか、深いテーマがあるのかと思います。ちょうど#MeToo運動の時期で、そうしたテーマとも絡められるのかなとも思いながら作りました。「父」役の松村武さん(カムカムミニキーナ)がやってくださったので、セリフの扱い方も堅苦しくなく、口語に近い形になったのかなと思います。

少し作り込んだ舞台で、テーブルや椅子など時代や環境の説明になっています。このくらいある程度説明があったほうが日本でやるのにはいいのではないかなと思います。最終的に「父」は夫が妻にはめられているのではないかと疑い、気が狂って亡くなってしまうというストーリ―なのですが、本当にそうなのかはわかりません。最終的に「父」に拘束服を着せてしまう残酷な話で、ストリンドベリの描く最後の場面の酷さに、お客様の中にはつらすぎて無理でしたという方もいらっしゃいました

―――『フォルケフィエンデ――人民の敵』では、新聞を張って舞台美術にしました。フランス人の美術家が、ちょうど辺野古の問題などが新聞によく取り上げられていた時期なので、中心に「NO!」「辺野古」などの見出しを貼ってくれたり古典と現代的問題がうまく交錯しました。イプセンフェスティバルでの再演時には私にもキャストにも更なる発見が多かったです。『チック』もですが、古典はさらに何層にもなっているので、あとになって後からあれはこういう意味だったのかと気づくことがあります。

〇翻訳劇を演出することについて

―――私はなるべく自分の生活と距離がある作品に取り組む方が面白いと思っています。歴史から学び、他者を知ること、知らないことを知ることが面白いと思うのです。

ドイツ文化センターでの『冬の旅」のリーディングは、ドイツではシリアの難民の人が実際に演じている作品でした。それを日本でやろうとするとなかなか大変でしたけれど異文化のものを上演することは、まず異文化を尊重しなければならないので、何かお客様と一緒に考えていくという意味でやる意味は多分にあると思います。

差別もない方がいいし、なんでもウェルカムの方がいいけれど、演劇で何かができるとは思っていません。でも、作品について調べたり考えたりしていくことで、果たして自分たち自身が本当に差別していないのかといった壁にもぶつかりますし、お客様からも「これってどうなんだろう」という話が出てくるとまた私たちも考えて・・・となっていきます。

〇演出について

―――ドイツの演劇のようにその戯曲を知っている前提で、戯曲の物語を解体してしまうと、日本のお客様にわかりにくくなるのではないのかなと思っています。私がめざしているのは、普段演劇とは縁のない近所の八百屋さんや看護師さんなどが来て、よくわからなかったけれどなんか面白かったねといってもらうことです。

 

 小山さんは2020年4月に惣領冬実の漫画を原作にしたミュージカル『チェーザレ――破壊の創造者』(明治座)の演出、7月に『魔法のカクテル』の作者ミヒャエル・エンデ自身が戯曲を書いた『願いがかなうぐつぐつカクテル」(新国立劇場)の演出、10月に劇団四季新作オリジナルミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』(自由劇場)の演出を予定している。