クリスチャン・ルパの演劇――2009年欧州演劇賞イベントで上演された三本から/野田学
2009年の欧州演劇賞行事期間中、3本のルパ作品が上演された。ヴェルナー・シュヴァーブ作『かぐわしきかな天国 (Die Präsidentinnen)』(邦題は寺尾格訳 [『Deli』第1号(沖積舎)2003年所収]による)、そして2本のオリジナル作品--『ファクトリー2』(2008年)と『マリリン』(ワーク・イン・プログレス)--である。以下、この3本を追っていこう。
『かぐわしきかな天国』
ルパ演出により1999年に初演された『かぐわしきかな天国』は、その後世界各地をツアーした作品である。シュヴァーブといえば、オーストリアにおいて徹底的にそのカトリック・ブルジョワ的精神性を攻撃した作家だ。英国のサラ・ケインやマーク・レイヴンヒルに代表されるような血と精液だらけのニュー・ブルータリズムは、その後全世界的に上演ラッシュをみたが、オーストリアのシュヴァーブによる仮借なき人物造形とグロテスクでスカトロジカルなイメージの連鎖はこれの先駆けとなったといってよいだろう。
作品では三人の女性がそれぞれのきわめて偏狭な価値観の中で繰り広げられる幻想と幻滅を止めどなく吐露(吐瀉?)し続けていく。なかでもマリードルは素手でトイレの糞尿のつまりを取り除くことにカトリック的聖性を見いだしている。彼女の役は他の二人の女性と同じ中高年に設定されることが多いようだが、それを若い女優にあてたのはルパの工夫だろう。破滅へと突進していく「不条理パンク」的作風の中で、リアリズム型の演技における集中力が切れないところに、ルパの俳優の力量の高さを垣間見ることができた。