【思考の種まき講座】人形劇人的な、あまりに人形劇人的な
「思考の種まき講座 演劇フォーラム」
人形劇人的な、あまりに人形劇人的な
【日時】2022年4月10日(日)
【会場】座・高円寺 けいこ場2(地下3階)
講師:山口遥子(プーク人形劇場)
ゲスト:ヤクブ・ホラ(チェコ・プルゼニ州立アルファ人形劇場代表)
クラウディア・クラウディア・オレンスティン(ニューヨーク市立大学ハンターカレッジ教授)
4月の「思考の種まき講座」(2022年4月10日@座・高円寺)は、講師に山口遥子さん(プーク人形劇場)、ゲストにヤクブ・ホラさん(チェコ・プルゼニ州立アルファ人形劇場代表)とクラウディア・クラウディア・オレンスティンさん(ニューヨーク市立大学ハンターカレッジ教授)をお迎えし人形劇について語っていただきました。以下、講師の山口さんからの報告です。
今回の講座では、日本・アメリカ・チェコで人形劇に取り組む三名の人形劇人が、人形劇の最新状況について実践面および理論面から報告しました。
最初に登壇した山口は、ドイツを中心に2018年以降のヨーロッパ各国の作品をいくつか紹介し、作品やフェスティバルの傾向性についてお話ししました。現代の人形劇舞台では、昔ながらの手遣いやマリオネットは無自覚的に使われることはなく、古典的形式をわざわざ用いる正当な理由がなければなりません。また人形劇界の関心は、ものをただ擬人化し、人間の代わりに人形を動かすのではなく、物そのものの振る舞い方の探求、あるいは物と人間の新しい関係の探求のほうに関心が移りつつあると言えます。
その一方で、こうした現代人形劇の関心のありかは、昔ながらの人形劇の軽視や、隣接領域による人形劇の駆逐(昔ながらの人形劇団ではない、ニューサーカスやロボット演劇その他隣接領域のカンパニーばかりが人形劇フェスティバルに招かれるようになる)という現状に繋がっています。これを受けて、人形劇ならではの価値を問い直そう、という動きも始まっています。たとえば、今回の講演者のヤクブ・ホラさんがディレクターを務めるチェコの人形劇フェスティバルでは、アイデア勝負の作品より、操りの技術がしっかりしていて昔ながらの「人形劇」の価値を高めることができるような作品を優先してセレクトする方針をとっています。加えて、伝統的な人形劇を新たな形で表現しようとする試みもヨーロッパ各地で始まっています。たとえばスロベニアのリュブリャナ人形劇場は2019年、ミュンヘンで19世紀に作られた『フクロウの城』という台本と、20世紀初頭にスロベニアで作られた伝統的な人形を用いつつ、ハイテクメディアを駆使して現代人形劇としても見応えのある作品を作り出し、多くのフェスティバルで受け入れられました。
次に登壇したクラウディア・オレンスティンさんには、Basil Twist、James Ortiz、Julie Taymor、Bread and Puppet、Spiral Q、The People’s Puppets of Occupy Wall Streetなど、アメリカ現代人形劇の代表例についてお話し頂きました(下記リンク参照)。アメリカ人形劇の傾向性としてクラウディアさんが指摘したのは、その政治的・社会批判的側面です。また、現在アメリカでは人形劇の新たな作品傾向に対応するため「人形劇」(puppet theater)という言葉の軛を超える「パフォーミング・オブジェクト」や「マテリアル・パフォーマンス」という語がよく使われているとのこと。アメリカ人形劇の中で日本人が一番良く知っているのは、セサミストリートをつくったジム・ヘンソンという伝説的な人形遣いのマペットですが、その範疇を遥かに超えた、広大なアメリカ人形劇の世界を大量の写真を交えてご紹介頂きました。
加えて、オーストラリアの研究者・人形遣いマーガレット・ウィリアムズによる「人形劇とは特定の演劇形式ではなく、不特定の芸術様式を人形へと結びつけるように観賞する観客の様式である」という挑発的かつ重要な定義や、インドネシア人形劇研究者ヤン・ムラゼックによる「人形劇は必然的にモンタージュ芸術である」という主張など、現代人形劇理論のいくつかについてもお話し頂きました。ムラゼックによれば、人形劇とは常に観客に舞台上のさまざまな要素を組み合わせる作業を求めるもの、したがって観客の積極的な関与が欠かせないものです。能動的に舞台上の要素を結びつけることは、人形劇を観賞する楽しみの一つであり、人形劇作品の一つ一つが、その観客の営みをさまざまな形で活用していると言えます。
最後に、ヤクブ・ホラさんにチェコの人形劇の現状についてお話し頂きました。チェコでは、人形劇が舞台芸術の一ジャンルとして重視され、俳優劇や映画、アニメーションなど他の人気の分野との間を行き来しているアーティストが多いという、世界的に見ても珍しい特徴があります。つまり国内文化圏の一番の売れっ子たちが人形劇のメインプレーヤーでもあります。またプラハ芸大の人形劇学科からヨーロッパ中に人材を送り出していて、次世代育成が上手くいっているというのもチェコ人形劇の特徴の一つです。それを支えているのは、プラハのミノル劇場、プルゼニのアルファ劇場、リベレツのナイヴニ劇場など、国内10ヵ所ある公立の人形劇場です(下記リンク参照)。クリエーションに対してのみならずチケット料金にも8割近く国の援助が入り、アルファ劇場のチケットは一枚300円ほどで販売されているとのこと。ホラさんには、チェコ現代人形劇がどのような経緯でこのように理想的な状況へと到達したのか、ヨゼフ・スクパ(1892-1957)以降現在に至るチェコ人形劇発展の歴史について解説して頂きました。
会場は満員御礼でした。クラウディアさんはコロナ後初の対面講義とのこと、久々に顔をつきあわせて演劇を語る歓びにあふれた二時間となりました。質疑応答では、人形劇の高等教育機関、人形劇とケアの問題、人形劇とホラーの関係、など多岐にわたるご質問を頂き、終了後も会場に残った参加者の皆さんと活発な対話が交わされました。
講座中に出てきた人形劇団等のリンク一覧
作成:石井秀明氏(人形劇の情報サイト“パペットパーク” 主宰)
【アメリカ】
・Basil Twist
・James Ortiz
The Woodsman
・Robin Frohardt
http://www.robinfrohardt.com/
https://www.theplasticbagstore.com/
http://www.robinfrohardt.com/#/fitzcardboardaldo-1/
・Puppeteer Chris Green
https://www.theatermania.com/new-york-city-theater/news/puppeteer-chris-green-mounts-a-unique-family-produ_66692.html
https://www.facebook.com/watch/?v=10155745549198668
・Dan Hurlin
Hiroshima Maiden
・TOY THEATER FESTIVALS
https://greatsmallworks.org/toyfest.html
https://www.facebook.com/watch/live/?ref=watch_permalink&v=3961710333855430
https://www.facebook.com/watch/live/?ref=watch_permalink&v=322246095417114
・Puppet slam network
https://www.puppetslam.com/
https://www.facebook.com/groups/puppetslamnetwork/
https://www.ibexpuppetry.com/
・Edna Bland
https://lovelydaycreativearts.com/
https://www.orlandosentinel.com/entertainment/os-et-s4-edna-bland-puppeteer-sanford-20190201-story.html
https://www.youtube.com/watch?v=0zXMNtl_ai4
・Spiral Q
https://www.spiralq.org/
・The People’s Puppets of Occupy Wall Street
・Bonne Kim
https://thinktechhawaii.com/team/bonnie-kim/
https://ibc.ac.th/en/node/3130
【チェコ】
・ミノル劇場
https://www.minor.cz/en/o-divadle/minor-yesterday-and-today/
https://wepa.unima.org/en/divadlo-minor/
・ドラク劇場
https://draktheatre.cz
https://wepa.unima.org/en/divadlo-drak/
・アルファ劇場
http://www.divadloalfa.cz/index.php/en
https://wepa.unima.org/en/divadlo-deti-alfa/
・ナイヴニ劇場
https://www.naivnidivadlo.cz/en
https://wepa.unima.org/en/naivni-divadlo-liberec/
・ダムーザ