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 沖縄県中部にある米空軍嘉手納基地。沖縄がまだ米軍統治下だったころ、ここからB52戦略爆撃機がベトナム戦争へと飛び、北爆を繰り返した。池澤夏樹が2009年に刊行した長編小説『カデナ』(新潮社)は、このベトナム戦争と沖縄の現代史が絡み合う。

 エーシーオー沖縄が戦後80年企画の一環で、五戸真理枝の脚色、藤井ごうの演出で初めて、この『カデナ』を舞台化。那覇市安里のひめゆりピースホールで沖縄の「慰霊の日」をはさんだ6月22~28日に上演された。1972年の返還後も基地は残り、南西諸島は有事の際の最前線にされようとしている。藤井が演劇的仕掛けをたっぷりまぶしたエンターテインメント性あふれる舞台は、いまの沖縄をビビッドに照射する物語ともなった。

 舞台は70年、コザ騒動で車が燃え上がる光景に、嘉手納基地で働くフリーダ=ジェイン・ミラー曹長(外間結香)が、ある事故のフラッシュバックに襲われたことから始まる。その事件とは68年、ベトナムへ向かおうとしたB52が嘉手納で離陸直後に墜落炎上した事故だ。フリーダと、そのB52のパイロットのパトリック・ビーハン大尉(須田真魚)の関係と、そして爆撃計画を流すことで北爆を無力化しようとするフリーダとベトナム人の安南(当銘由亮)、ドラマーのタカ(久米俊輔)、ラジコン飛行機店の朝栄(花城清長)の4人のスパイ活動が、時空を交錯させながら展開していく。

 なぜ、そういった危険なスパイ行為に従事するのか。フリーダはフィリピン人の母(枝元萌)から命じられるのだが、そのフリーダにも朝栄にもアメリカの爆弾が降ってくる下にいた戦争の「記憶」がある。ベトナムの惨禍が見過ごせないのだ。

 舞台は、装置がほとんどなく、とにかく見立てが面白い。黒い機体のB52を人間が表現したり、譜面台を操縦桿にしたり、フリーダの家の庭木を人間で表現したりする。客席を3方に配した小空間が、基地内のサンドイッチ店にも、爆撃機の操縦席にも、そして大空にもなる。白い長方形の舞台が盆で回ることで臨場感も増す。五戸の脚色は心情をフォーカスしながら、スピード感がある。

一般社団法人エーシーオー沖縄 戦後80年企画『カデナ』
原作=池澤夏樹、脚色=五戸真理枝=演出:藤井ごう 
2025年6月22日(日)~6月28日(土)/ひめゆりピースホール
撮影=坂内太

 須田がパトリックを分厚く造形する。エースパイロットのメンツへのこだわりを見せる一方、爆撃の下にいる人間のことを思い葛藤するセリフに人間味が宿る。ダンサーでもある外間はキレのある身体性を生かしてフリーダの心情に迫る。枝元はフリーダの同居人ベッキーや、フリーダの母を懐深い演技で見せ、また、うまく抜け感を生むコメディエンヌぶりも発揮する。

撮影=坂内太

 くしくも初日の朝、米国がイランの核施設への空爆に成功したというニュースが流れた。ガザへの攻撃も続く。「戦後80年」と言われても、やはりモヤモヤしてしまう。爆撃の下にいる人たちをなんとか救いたい。そんな思いが重なる公演となった。