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2. ダンスパフォーマンス 

 ダンスパフォーマンスとしての6sptesを行う際にダンサーには振付書がタスクとして与えられている。ダンサーたちはこの指示書に従って階段上でのダンスを構成する。振付書は階段上での身体の動きを厳密に指示するもの(いわゆる振付)ではないために、振付書に書かれた指示をどのようなタスクとして実行するかはダンサーたちに委ねられてきた。また、この指示書はパフォーマンスの前後で観客たちも目に触れることができるため、観客が知らないルールに基づくダンスが上演されることはない。階段という振付と振付書に対するダンサーごとのアプローチの違いが観客に対して明白に呈示される。

 パフォーマンスの会場となったYAU CENTERに入ると向かって左側は杉の小上がりのスペースが広がっている。小上がりの上に会場の奥へと段を向けて階段が設置されており、また入り口に対して真向いに段を見せてもう一つの階段が設置されている。2つの階段の間には柱が立つ。柱を中心に対照的な位置に階段は設置されているが、小上がりの上にある階段は若干斜めを向いており、形状のよく似た階段が1組あるものの、その向きの捻じれによってそれが会場におけるシンメトリーを構成しているわけではない。観客はこうしたセッティングを囲むように座るが、当然ながら、座る位置によって見える景色は異なる。皇居を臨む大きな窓を背景に階段を眺める位置もあれば、通りの向かいにある高級ホテルを映し出す窓を背景に階段を眺めることもある。異なる向きの階段が一組設置され、中央に柱があることで、このパフォーマンス空間は観客に対して一様に成立する正面性を想定しているわけではないことがわかる。そのため、どこに座っても観客は完全に会場を見渡せるわけではなく、観客にとって不可視になる箇所が生じる。

 今回のダンスパフォーマンスでは木村とダンサーの杉本音音が踊る。階段の背面はその中へ入り込めるような空洞になっており、入り口となるような場所に小さい椅子が2脚置かれている。小上がりに設置された階段の背面にある椅子に木村は座り、会場入り口近くにある階段を杉本はゆっくりと上がっていく。こうしてパフォーマンスが始まると、木村は椅子から立ち上がり小上がりを降りて、別の階段の背面へと向かいそこにある椅子に座る。木村の移動の間にも杉本は階段の上り下りを繰り返し、木村が着席してから杉本は隣に座る。その直後に木村は立ち上がり入れ替わるように階段を上り下りする。2人が上り下りをしている最中、おそらく指示書に対するアプローチであろう身振りや姿勢が垣間見える。

Photo by Hana Yamamoto

 杉本が小上がりにある階段へ移動しそこでも段上でダンスを行い、木村はまた階段を下りて椅子に座る。木村は顔を別の階段のある方向から背けたまま座り続け、しばらくすると床に寝そべりそして寝転がりながら別の階段へと移動する。ポーズを変えながら階段の上り下りを続ける杉本と寝転ぶ木村は、階段の手前でちょうどすれ違う。杉本はその階段を去り、木村は寝転びながらその階段をゆっくり上がっていく。そして立ち上がると駆け上がったり走ったりややリスクのあるような上り下りを繰り返す。杉本は木の幹のような木材を両腕に抱えて会場入り口の階段へと向かう。杉本が木材を抱えたまま上るのと同時に木村は降りていき、小さな木材を抱えて、杉本が踊る階段の背面にある椅子に座る。そこから木村は小さな木材をつかんだ手を上方へ伸ばした。6段目から辛うじてはみ出て伸びるくらいの位置に腕が伸び、杉本が上り下りの最中に6段目へと到達するとその木材を受け取る。木村は腕を戻すと杉本と同じ階段へ移動し、異なる動きで上り下りを繰り返す。

Photo by Hana Yamamoto

 杉本がその階段を離れて小上がりにある階段へと向かい、また上り下りを始める。木村はまた繰り返すかのように寝転がりながら杉本が踊る階段へと向かう。木村が到着しても2人はすれ違わず、同じ階段の上で極端に異なるテンポで上り下りをしたり、無関係であるかのように振る舞ったりする。間もなくして木村が一人で階段の上り下りを続けるのだが、杉本は傍らでそれを見つめる。杉本はまた階段に近づくと、2人は段上に腰掛けたり身体を丸めたり上り下りを時々休んだりする。それぞれのタイミングでまた上り下りを再開し、お互いの方法で上り下りをする。しかしながら、2人が地に着くと横並びになり、テンポを揃えて同時に階段を上り始める。2人はテンポと姿勢を揃えて、まさしくユニゾンとして初めて踊るのだ。頂上である6段目に到達した2人は、天井に隠してあったバードコールを手に取り、窓の外に広がる皇居を囲う木々を眺めながらそれを鳴らす。その後身体の向きを変えた2人は、会場をゆっくり見渡しながら6段目から降りて地に着くと、そのまま小上がりも下りてその会場を後にする。

Photo by Hana Yamamoto