「あの世」からの声に現代の視点重ね――エーシーオー沖縄『真の花や』/濱田元子
2025年1月29九日、沖縄県名護市辺野古で進められている新基地建設で、大浦湾の埋め立て区域の軟弱地盤改良工事の一環として砂くいの打ち込みが始まった。計7万1千本もの砂くいが海底に打ち込まれる予定だ。ジュゴンやサンゴなど生物多様性豊かな海への影響も懸念されるという。
そんな現在進行形の問題と、いやでも重ねて考えずにはいられなかった。ちょうど、その日に那覇・ひめゆりピースホールで見たエーシーオー沖縄『真の花や』(作=謝名元慶福、演出=小笠原響)である。コンクリートで固めて空港を造ろうという話が持ち上がっている南の小島を舞台にした話だったからだ。戯曲は約40年前、1986年に書かれたが、上演されるのは今回が初めてという。
エーシーオー沖縄の戦後80年企画の第一弾。石垣島など八重山地方で旧盆に行われる「アンガマ」と呼ばれる、あの世とこの世をつなぐ祭事がカギとなる。翁と媼(おうな)の木彫りの面を付けた死者の使いであるアンガマが、死者の出た家に現れ、裏声を使ってあの世のことをいろいろとユーモアを交えて語っていくというものだ。
そのアンガマで、翁役を引き受けた平敷屋朝薫(当銘由亮)と、媼役の南島若子(知花小百合)は共に沖縄で芝居をしているが、実は元夫婦。稽古で喧嘩を始めてしまう。そこに島の青年団長(比嘉崇貴)、若子の弟子の梯梧(宮城はるの)、そして海の恵みで生計を立てていた老夫婦の心中事件も絡んでくる。物語は86年を起点に、約四十年をさかのぼって沖縄戦の時代の記憶も交錯し、複雑な劇中劇の構造を呈していく。それを解く手がかりとなるのが、あの世とこの世を結ぶアンガマというわけだ。
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作=謝名元慶福、演出=小笠原響
2025年1月24日(金)~1月30日(木)/ひめゆりピースホール
撮影=坂内太
夫婦の心中の背景にも沖縄戦中の出来事、そして「サンゴの花畑」を埋め立てた空港建設計画が浮かんでくる。
実際、石垣島では1970年代終わりに新空港建設のためサンゴ礁を埋め立てる計画が持ち上がり、80年代初めに自然破壊だとして反対運動が起こる。紆余曲折をへて、最終的には内陸部に建設されたという経緯がある。
80年代の視点に、自然と現在の私たちの視点も重なってくる。そんな作劇に、いま上演することの意義が伝わってくる。
ファンタジー要素もあり、劇の位相は複雑に入り組んでいるが、巧みに変化をつける阿部康子の照明が理解の補助線となる。セピア色の中に浮かぶ戦争中、こうこうとした月夜の海辺の光景に、ゾクゾクさせられる。
四人の俳優全員が、沖縄出身であり、「無蔵念仏節」「トゥバラーマ」など八重山民謡が情緒と、独特の世界観を生む。なかでも当銘の三線、琉球舞踊家である知花による、いとしい人に上等な着物を作ってあげたいという女性の思いを表した「かしかき」は、思わず息を飲む珠玉のシーンに仕上がった。
エーシーオー沖縄は、戦後80年企画第二弾として、又吉栄喜の芥川賞受賞作品『豚の報い』の初舞台化(脚本=堀江安夫、演出=藤井ごう)に挑む。2025年3月21~27日にひめゆりピースホール、29日にアイム・ユニバース てだこホール 小ホールで上演される。沖縄戦から80年でもある。いまに何を問いかけてくるのか。引き続き注目していきたい。