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屋外パフォーマンス『Passages

 現実の動作への眼差しと、それらを原理的に探求する思考/志向を有するスーリエの振付を見てきた。翌日、劇場中庭であるロームシアター京都 ローム・スクエアで行われた屋外パフォーマンス『Passages』は、こうしたスーリエの思考をより具象的な環境において実践したものと評価できるだろう。劇場建築の太い角柱が並ぶ上演エリア、周囲の街のにぎわいとシームレスにつながる観客席、リラックスした面持ちで開始を待つ老若男女。劇場内とは異なる複層的な情報のレイヤーの中に、すでに作られた振付を再配置する本作は、巡回プロジェクトとして複数の場所で試みられている。音楽はなく、ダンサーどうしがアイコンタクトをとりながら、観客が囲む四角いエリアに颯爽と走り出て、ステップを合わせては解消していく。地面、大気、環境音など、この日、この場所の具体的な条件を身体で読み取り、瞬間ごとに調整しながら実践されるアンサンブルは、都市の生き生きとした息吹を受けて、日常の中にダンスがごく自然に「オーガニックに」存在することを、歓びに満ちた光景にして浮かび上がらせた。

 ここまで京都公演を見てきた。関連企画には参加希望者が多かったといい、関心の高さが伺えるが、ノエ・スーリエの仕事の意義を今日のダンスの文脈でどう捉えればよいだろうか。『The Waves』の一作と関連の作品(『Fragments』、『Passages』)のみで判断するのは早急ではあるが、ノン・ダンスと呼ばれたコンセプチュアルな傾向を経て、舞踊史は人形劇やサーカス、路上や移民のダンス、レイブパーティーやショーなどの社会風俗など、アカデミックな芸術舞踊の隣接領域への接続により「ダンス」を回復してきたと考えるならば、西洋舞踊史の内側で舞踊言語を探索するスーリエの立ち位置は明確だ。ここではバランシン、カニンガム、フォーサイスの系譜に対峙する側にスーリエを置いて考察してきたが、実際にはフォーサイスの「Improvisation Technologies」を解説しながら実演するレクチャーパフォーマンス作品1) 『Movement on movement』(2013)を発表しており、バレエへの批評的なリファレンスを保持している。また、バレエを主軸とするカンパニーとの共働もあるといい、その場合、それぞれのパ(ステップ)に付けられた名前の本来の意味に立ち返ることで振付をする2)京都公演のポストパフォーマンストークにおけるスーリエの発言。というから、動きに対する原理的な思考は一貫しているとみえる。ダンスの境界が限りなく広がりを見せる現在、西洋舞踊史の中心をなしてきたダンス・アカデミック、芸術としての舞踊は、舞踊文化の多様さの中で相対化されることは必至だ。しかし同時に、芸術舞踊の言語にとどまり、それらの存在を前提としつつ、新たに言及することで自らを更新していく。芸術舞踊の創造的な価値を追求する振付家の仕事に触れる機会となったことは間違いない。

(2024年4月5日、ロームシアター京都 サウスホール)

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1.  『Movement on movement』(2013)
2. 京都公演のポストパフォーマンストークにおけるスーリエの発言。