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Ⅲ.おわりに

  非人間的存在を題材にした演劇『千個の青』とミュージカル『メイビー、ハッピーエンディング』は国境と文化を超えて普遍的な共感を生み出している。その事象は単なる成果に留まらず、ポストヒューマニズムのテーマに今の時代が何を望むのかという問いへの一つの答えでありうる。次に、その成果を含め幅広い共感を生み出している両作品の意義についてまとめてみたい。

 第一に、コロナ禍以降孤立感が深まり人と人とのつながりが希薄化していく社会状況の中で、両作品では非人間的存在との関係を通してその修復を試みる。パンデミックの影響で社会的距離を置き、デジタルツールによるコミュニケーションが日常化したことは、かえって人々につながりや親密さをより求めるきっかけとなった。両作品ではいずれもロボット‐人間、動物‐人間同士のケアと連帯を描くことで、従来の人間中心の関係づくりが露呈した限界を超え、新たなつながりへの可能性を見出している。

 第二に、AI技術の急速な進化に伴い期待と不安が入り交じる現実の中で、両作品はそのテクノロジーをディストピア社会の恐怖と結びつける代わりに共存の倫理を提示する。ChatGPTの登場や生成型AIが日常に深く浸透し、人工知能との関わり方が現実問題として浮上してきた今、コリー・クレア・オリバーなどのキャラクターはAIを敵とみなすべき他者ではなく、ケアのパートナーになりうるという想像力を提供する。

 第三に、気候変動の影響で生態系が破壊されていく危機的状況の中で種間関係の再編が行われ、人間中心主義的思考の限界が明らかになっている。絶滅危惧にある動物が増加し生態系のバランスは崩れ、人獣共通感染症が拡散していく今日の状況は、人間と非人間的な生命体が分離された存在ではなく、相互依存的な関係にあることを物語る。両作品で描かれる多種間の連帯は生態システムが危機に陥った今の時代に新たな倫理的想像力を与えている。

 第四に、世界が直面している不平等や社会的排除が進む中で、中心部から外れた「周辺部」の存在同士の連帯に光を当てている。障がい者、若年者、女性、動物、ロボットなど、過去には中心部から排除されていた存在たちがケアしあう物語は、感情に働きかける慰みに留まらず、共存と共同体のあり方への具体案となっている。

 第五に、個人主義社会や競走中心の社会におけるケアと連帯の価値が見直されている。競走を重視する新自由主義の論理の限界が明らかになった現在、効率性と生産性より関係性とケアを重視する価値観への転換が求められる。コリーがトゥデイのために自己犠牲する行為、およびコリーとトゥデイを救うためのヨンジェとウネの尽力はまさにこのような価値転換を具現化している。

 第六に、文化的多様性の中でも共有できる普遍的な感性の発見である。『千個の青』の原作小説がハリウッドで、また、『メイビー、ハッピーエンディング』がブロードウェイで評価された。その理由は両作品とも韓国固有の特性を飛び越え、そのテーマが世界的に共感できる普遍性があったためだと考えられる。愛、死、ケア、連帯などのテーマは文化の境界を超え、作品の中の非人間的存在に新たな光を当てたことで、従来のヒューマニズム的な感性を拡張している。

 二作品が普遍的な共感を生み出した要因として、現在人類が直面している複合的な危機への社会全体の不安、およびそれを解消するための新しい対策への願望を挙げられる。気候変動、パンデミック、AI革命、社会的不平等の深化などがもたらす問題は、従来の人間中心的な思考では解決が難しい。この流れの中で『千個の青』と『メイビー、ハッピーエンディング』が提示する多種間の連帯やポストヒューマン的想像力は、単なる文学的・芸術的想像力に留まらない未来を見据えた倫理学や生存戦略にもなりうる。

写真提供=韓国国立劇場

 二作品の中では、とりわけロボットとAIは敵とみなすべき存在ではなく、ケアのパートナーとして描かれる点が注目すべきである。AI技術の進化によって人間の仕事が奪われ人間性の喪失をもたらすと懸念される中で、二作品はテクノロジーと人間との共存の可能性を探り、その点で重要な文化資源となりうる。コリー・クレア・オリバーのようなキャラクターによって、AIが人間に代わる存在というより、人間とともにより良い世界を切り開く同伴者となりうる未来像が描かれる。

 以上のように、最近の韓国の舞台芸術としてこれらの作品はロボットと動物など、機械をはじめとする非人間的存在にケアと愛、および死と消滅の主体の地位を与え、ポストヒューマニズムの倫理的・哲学的な展望を舞台上で具体化している。地球上に存在するあるゆる生物‐非生物は相互依存の関係にあり、その存続のためには協力しあう必要がある。もうすでに人間は、人間中心主義という傲慢な考え方から脱して多種多様な生き物や機械などとともに暮らしていくしかない状況に直面している。その状況からすると、これらの作品が取り扱うポストヒューマンのテーマが幅広い共感と支持を集めている現象も当然だといえる。


参考文献

●オ・ヘジン、「ヒューマノイドを通した人間存在に対する考察‐種を超えての共存を探る/チョン・ソンランとキム・ヨンハの作品を中心に」、『語文論集』第101集、2025年、p.305-326.
(原文:오혜진. 「휴머노이드를 통한 인간 존재에 대한 성찰 ― 종을 넘어서는 공존의 탐색, 천선란과 김영하의 작품을 중심으로」 『語文論集』 제101집 (2025): 305–326.)

●コン・ラヒョン、「SF小説に表れる人間と非人間の「一緒になる(becoming-with)」の研究‐チョン・ソンランの『千個の青』(2020)を中心に」、『現代文学理論研究』第95集、2024年、p.111-139.
(原文:공라현. 「SF 소설에 나타난 인간과 비인간의 ‘함께-되기(becoming-with)’ 연구 ― 천선란의 <천 개의 파랑>(2020)을 중심으로」 『현대문학이론연구』 제95집 (2024): 111–139.)

●チョン・ソンラン作、『千個の青』、ソウル:ハブル、2020年
(原著:천선란. <천 개의 파랑>. 서울: 허블, 2020.)

●Haraway, Donna J. The Companion Species Manifesto: Dogs, People, and Significant Otherness. Chicago: Prickly Paradigm Press, 2003.

●Haraway, Donna J. Staying with the Trouble: Making Kin in the Chthulucene. Durham: Duke University Press, 2016.


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報告①/BeSeToシンポジウム「演劇におけるポストヒューマン的転回」